損か、トクか、の採算を知ることは最重要な「会社の数字」です!

もくじ

「損益分岐点」とは何か 
事業の収支、損か?トクか?を判断する

講師
今回の講義は、実務で役立つ採算性の話です。
事業は、常に採算性を考えなければなりません。
 
受講生

あらためて、採算性と聞かれると、
正直、うまく説明できません。
収支の話ですよね。

受講生

採算ですか?
新規事業などでよく聞きます

講師

採算とは、つまり、損か?トクか?の話です。
まずは、身近な例をつかって、説明していきます。
さっそく、採算性についてみていきましょう。

会社は、利益を追求する以上、あらゆる場面で採算を考えなければなりません。

採算性とは、収支トントンのことです。
つまり、利益がプラスでもマイナスでもなく、ちょうどゼロの売上高を知ることです。



この「利益ゼロの売上高」のことを損益分岐点といいます。
損益分岐点を知れば、いくら売れば利益が出るのか、がわかります。
売上をあげるためには、まず、利益と損失の分岐点を知っておく必要がある、というわけです。
それでは、身近な例で、採算性を考えてみましょう。

乗車券か?それとも、定期券を購入すべきか?

あなたは、毎日、電車で通勤しているとします。
一日の乗車料が、片道250円、往復500円です。
定期券代は、1ヵ月10,000円です。
このとき、採算がとれる利用日数は、何日でしょうか?

ざっくり、計算してみましょう。

定期券10,000円÷500円=20日

通勤日数が20日なら、定期券を購入しても、毎日、乗車券を購入しても、
同じ金額を通勤費として支払うことになります。
しかし、20日の出勤日数を超え、かりに21日だとすると、つぎのような計算になります。
毎日の乗車券代(往復)500円×21日=10,500円

毎日の乗車券代 10,500円 > 1か月の定期券代10,000円

この比較からわかるように、毎日の乗車券を購入するか?定期券を購入するか?
この問題の解答は、出勤日20日が線引きになることがわかります。
この20日という線引きを知ることこそが、採算性を知ることになります。

受講生

この通勤費の事例は、身近で、すごくわかりやすいです!

変動費,固定費,変動費率とは何か

講師

それでは、会社の採算性についてくわしく考えていきます。
まずは、会社の数字の用語と意味を知る必要があります。

会社の採算性を知るには、つぎの3つの知識が必要になります。

・変動費
・固定費
・変動費率

の3つです。

順番にみていきましょう。

 

 変動費とは、売上高に比例して増えたり減ったりする費用です。

仕入れた商品などが代表的な例です。売上が増えるほど、仕入れる商品も増えるからです。

変動費(円)=売上に比例して増減する費用

固定費とは、売上高に関係なく発生する費用のことです。

人件費が代表的なものです。社員の給与は売上高に関係なく支払わなければなりません。
その他、販売費や一般管理費も固定費と考えてください。

固定費(円)=売上に関係なく発生する費用

さいごに変動費率です。

変動費率とは、変動費を売上高で割ったものです。



計算式はつぎのとおりです。

変動費率(%)=(変動費÷売上高)×100

これら3つの知識をつかって、損益分岐点売上高は求められます。


損益分岐点売上高の計算式は、つぎのとおりです。

損益分岐点売上高(円)=固定費÷(1-変動費率)×100


損益分岐点を計算してみましょう。

B社のデータは、つぎのとおりです。
損益分岐点売上高はいくらか。

【B社のデータ】                 (単位:百万円)

売上高 3,000  仕入高 1,800   固定費 800    
    

B社の損益分岐点売上高は、以下のようになります。
まず、変動費率をもとめます。

変動費率 60%=(1,800÷3,000) ×100

つぎに公式をつかって、損益分岐点売上高をもとめます。

2,000円=800÷(1-0.6)×100

損益分岐点売上高は、2,000円となります。

B社は、2,000円の売上高があれば、収支トントンの「利益ゼロ」になることがわかります。
つぎに2,000円のときに利益がゼロになるのかを検算してみましょう。

B社の損益分岐点売上高

(単位:百万円)

売上      2,000

仕入※     1,200

固定費      800

利益         0


【参考】

仕入高は、変動費です。つまり、売上高に比例します。

変動費率は60%ですから、売上高2,000円に比例する仕入高は、

2,000×60%=1,200  


となります。
はじめのうち、間違いやすいところですから要注意です。
このように損益分岐点を知ることで、どのくらい売れば、利益が出るのか、がわかります。


損益分岐点比率とは何か

経営分析の一つに損益分岐点比率があります。

計算式は、つぎのとおりです。

損益分岐点比率(%)=(損益分岐点売上高÷売上高)×100

この比率は、小さい数字ほど良いことになります。
これは、売上高と損益分岐点売上高の数字が離れているほど、利益を確保しているからです。
反対にこの数字が大きくなるほど、経営は苦しいことになります。
利益が確保しにくい経営状態であるからです。

変動費と固定費の業界データを知る

変動費や固定費は、各業界によって、特色があります。
ここでは、中小企業庁が公表しているデータを参考にざっくりした業界データを表記します。

項目/業界 全産業 建設業 製造業 卸売業 小売業
変動費(%) 74.8 81.1 78.2 83.2 73.1
固定費(%) 23.1 17.3 18.9 16.2 26.0


決算書の表示されない「限界利益」とは何か

売上高から変動費を差し引いたものを限界利益といいます。

この限界利益は、決算書のどこにも記載されていない利益になります。
しかし、会社の実情を知るするうえでは、非常に大切な知識になります。
この機会に理解しましょう。

繰り返し、変動費と固定費を復習してみましょう。

変動費は、売上高に比例して増減する費用です。
仕入商品に代表される費用になります。
そもそも仕入業者から商品を仕入れなければ、お客さんに商品を売ることができません。
経営者の視点に立てば、変動費というものは、売上と同時に考えるべき費用ということになります。
具体的には、商品を売り上げると同時に、新たな商品の仕入を考えなければならないということになります。

固定費は、売上に比例せず、一定額定期的に発生する費用です。
オフィス賃借料は代表的な固定費になります。

この変動費と固定費を意味を踏まえて、限界利益の意味を考えましょう。

限界利益が、固定費よりも多い場合、会社は儲かった、ということになります。
反対に限界利益が、固定費よりも少ない場合、赤字ということになります。
しかし、一方で、限界利益自体が黒字ならば、固定費の一部を回収できている、という事実があります。
具体的にA社からD社までの4社を比較しながら限界利益を考えていきましょう。

【限界利益の4パターン】

項目/会社 A社 B社 C社 D社
売上高 100,000 100,000 100,000 100,000
変動費 200,000 400,000 100,000 120,000
限界利益 800,000 600,000 0 ▲20,000
固定費 500,000 800,000 400,000 600,000
営業利益 300,000 ▲200,000 ▲400,000 ▲620,000

【解説】

A社は、事業活動において、限界利益、営業利益の両方で利益を生み出している良好な経営状態といえます。
B社は、限界利益は、黒字ですが、その限界利益で固定費を回収できていません。
固定費の見直しが必要です。
C社は、限界利益が0円です。
事業活動を存続しても、しなくても同じと判断できます。
D社は、限界利益が赤字です。
この状態で、事業活動を継続させても赤字が増えるだけです。

限界利益率を使った損益分岐点売上高

限界利益率は、以下の計算式になります。

限界利益率(%)=(限界利益÷売上高)×100

この限界利益率をつかった損益分岐点の計算式は以下のとおり。

損益分岐点売上高(円)=固定費÷限界利益率

目標利益を確保する売上高の求め方


損益分岐点売上高の計算式を使って、目標利益を確保するための売上高を計算することができます。

[例]目標利益を金額で設定した場合

・目標利益 200百万円  ・固定費 1,000百万円  ・限界利益率 80%

目標利益達成売上高= (1,000百万円+200百万円)÷80%=1,500百万円

[例]目標利益を売上高利益率として掲げた場合

・目標利益を売上高利益率5%と設定 ・固定費 1,500百万円 ・限界利益率80%

目標売上高利益率達成売上高= 1,500百万円÷(80%-5%)=2,000百万円

【参考】

限界利益率80%のうち、5%は、目標利益のために確保します。
残りの限界利益率75%で固定費の1,500百万円を回収すれば、売上高利益率5%を達成できることになります。